貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会社に戻ると、大崎がすぐに私の顔を見た。

「レビュー、厳しかった?」

「はい」

「刺さった?」

「かなり」

「ちょっと来な」

大崎は、私の返事を待たずに、空いている小会議室へ私を引っ張った。

扉が閉まる。

小さな部屋に、二人だけ。

「で?」

「で、とは」

「藤代さんが今、何を飲み込んでるのか聞いてる」

この人も逃がしてくれない。

私は椅子に座り、膝の上で手を握った。

「……言おうと思ったことがあったんです」

「うん」

「リュミエールとお客様の関係性を、時間帯ごとじゃなくて、距離が縮まる流れとして見せたらいいんじゃないかって」

「いいじゃない」

「でも、言えませんでした」

「なんで」

なんで。

簡単な質問なのに、答えるのは難しかった。

私は少し迷ってから、言った。

「昔、好きで描いていたものを見られて、笑われたことがあります」

大崎は、黙っていた。

「大したことではないんです。相手も、たぶん悪気はなかったんです。ただ、『こういうの好きなんだ、意外』って笑われて。それから、好きなものを人に見せるのが怖くなって」

言葉にすると、ずっと抱えていたものがあまりにも小さく聞こえた。

たったそれだけ。

けれど、その「それだけ」が、何年も私の喉に引っかかっていた。