貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会社に着くと、営業推進部はすでに少し慌ただしかった。

今日の午後、リュミエール本部で中間レビューがある。

こちらとしては、前回までにまとめた「時間帯別の感情導線」を軸に、店頭サイン、席種表示、コピー案、スタッフの声かけまで含めた提案を出す予定だった。

朝。
昼。
夜。

迷わず、整う。
居場所が見えて、少し逃げられる。
帰る前に、ほどける。

私が出した言葉が、真鍋のデザインラフになり、瀬名の現場写真と組み合わされ、榊課長の赤字で資料として立ち上がっている。

その事実は、まだ少し信じられない。

「藤代さん、おはよう」

大崎が私の顔を見た瞬間、目を細めた。

「寝てない?」

「寝ました」

「何時間?」

「人間として最低限は」

「それ、だいたい最低限を下回ってる人の言い方」

鋭い。

大崎は、私の席に置いた資料を覗き込んだ。

「今日、レビューだよね」

「はい」

「緊張してる?」

「緊張というより、内臓が全員で退職願を書いています」

「戻して。今日、人手足りないから」

そう言われて、少し笑ってしまった。

笑った瞬間、胸のこわばりがほんの少しだけほどける。

でも、それも長くは続かなかった。

給湯室の前を通った時の噂が、ふっと蘇った。

――課長と瀬名くんと一緒にいすぎじゃない?

悪意のない雑談。

でも、悪意がないからこそ刺さる言葉というものがある。

私は止まりかけて、すぐに手を動かした。

今日はレビューだ。
変に気にしている場合ではない。