貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

翌朝、私は通勤電車の窓に映る自分の顔を見て、静かに絶望していた。

赤い。

まだ赤い。

昨日の雨の中、榊課長の傘に入れてもらい、駅前で髪についた雨粒を払われた。

ただそれだけ。

社会人同士として、上司が部下にした、ごく普通の配慮。

そう思いたい。

そう思いたいのに、私の脳内には、昨夜から同じ場面が何度も再生されている。

低い声。
濡れた袖。
近い距離。
髪に触れた指先。

そして、「君の視点は、君のものだ」と言った時の、あの目。

「……無理」

小さく呟くと、隣の女子高生がちらりとこちらを見た。

すみません。
大人が朝から人生を処理しきれずにいます。