貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

その時、会議室の扉が開いた。

榊課長が入ってきた。

手には修正版の資料。
顔はいつも通り無表情。

けれど、室内を見た瞬間、空気がほんの少し冷えた気がした。

「瀬名」

「はい」

「真鍋のラフ確認は終わったのか」

「あと少しです」

「なら自分の席でやれ。藤代のページは藤代が直す」

瀬名が、ゆっくり笑った。

「課長、今のは業務指示ですか」

「そうだ」

「分かりました」

瀬名は軽く肩をすくめ、私に向かって言った。

「先輩、さっきのところ。逃げないでくださいね」

それだけ言って、会議室を出ていった。