貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

瀬名は、少し黙ったあと、いつもの明るい声に戻した。

「じゃあ、仕事として言います。先輩、逃げると資料も弱くなります」

私は顔を上げた。

「え?」

「自分の言葉なのに、最後の一文だけ他人事になってます。噂を気にして引くのは分かります。でも、提案まで引かないでください」

言われた瞬間、痛いところを突かれたと思った。

私は画面を見た。

確かに、昼導線の締めのコピーだけ、妙に無難になっている。

『快適なランチタイムを提供する』

悪くはない。
でも、私が考えていた「一時退避」や「居場所」の温度が消えている。

怖くなって、薄めたのだ。

瀬名は続けた。

「先輩の案は、ちゃんと先輩の言葉の方が強いです」

私はペンを握り直した。

「……書き直します」

「はい」

瀬名が笑った。

「俺、待ってます」