貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

十時のレビューは、予想通り榊課長の鋭い指摘が飛び交う場となった。

「このキャッチコピーは誰に向けている?」

「若年層です」

「若年層、でひとくくりにするな。通勤前の二十代女性と、帰宅途中の二十代男性では、欲しい体験が違う」

「はい」

「駅ナカの強みは滞在時間の短さだ。ただし短いからこそ、感情の入口を設計する必要がある」

感情の入口。

私は議事録を取りながら、その言葉を頭の中で反芻した。

駅の中のカフェ。
朝、急いでいる人。昼、少しだけ逃げ込みたい人。夜、帰る前に一息つきたい人。
同じ店でも、時間帯によって客の感情は違う。

導線は、単に人の流れではない。
気持ちの流れでもある。

榊課長の指摘は厳しい。でも、感情を軽視しているわけではない。むしろ、かなり見ている。
ただ、それを言葉にする顔が冷蔵庫みたいなだけで。

「藤代、議事録は今日中」

「はい」

「午後、瀬名が出る前に資料一式を渡せ」

「承知しました」