貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会議が終わり、リュミエール本部を出た時には、夕方の空が重くなっていた。

瀬名はエレベーターホールで、いつもの笑顔に戻った。

「先輩、さっきの説明、すごくよかったです」

「瀬名くんが振ってくれたからです」

「俺は場を渡しただけです。話したのは先輩でしょ」

「でも、助かりました」

素直に言うと、瀬名は一瞬だけ目を丸くした。

それから、少しだけ声を落とした。

「助けたいんで」

胸が、きゅっと鳴った。

その言い方は、よくない。
仕事の流れの中に、微妙に別の温度を混ぜるのはやめてほしい。

「瀬名」

背後から榊課長の声がした。

瀬名が振り向く。

榊課長は、いつもの無表情だった。

ただ、目だけが少し冷たい。

「戻ったら、三枝さんの懸念点を資料に反映しろ」

「はい」

「藤代に頼るな。お前の担当だ」

「分かってます」

瀬名は笑って答えた。

でも、その笑顔も少し硬い。

私は二人の間に立ちながら、何とも言えない空気を感じていた。

これは何だろう。

仕事の緊張。
上司と部下の温度差。
それとも、もっと別のもの。

観察ならできる。
名前をつけることもできる。

けれど、今は自分が中心に近すぎて、うまく見えない。