貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「入口の正面に情報を増やすと、たしかに重くなると思います。なので、全部を見せるのではなく、人が自然に目線を合わせる位置に、一つだけ置くのがいいかと」

モニターの写真を指した。

「一人客は、入口の二歩手前で止まりやすいです。席があるかどうかが分からないからです。でも二人客は、少し斜めに立って、同じ方向を見ます。会話をしなくても、『入る?』という確認をする場所です」

三枝が、モニターを見た。

「視線の共有点、ですか」

「はい。そこに、席種を全部出すのではなく、『奥に一人席あります』とか、『二人席は奥へ』のような短い言葉を置く。情報量は少ないけれど、不安を減らす一言です」

私は、自分の言葉が震えていないか気にしながら続けた。

「お客様は、店に入る前から疲れたくないと思います。特に昼は、仕事に戻る前の一時退避なので。店頭で迷わせないことは、単に効率だけではなく、安心にもつながると思います」

会議室が静かになった。

また静かになった。
やめてほしい。静寂は私の自己否定を呼ぶ。

けれど、三枝はゆっくり頷いた。

「なるほど。情報を足すんじゃなく、不安のある場所に一言置く」

「はい」

「それなら、現場にも説明しやすいかもしれません」

私は心の中で深く息を吐いた。

生きた。
今回も私は生きた。

瀬名が隣で小さく親指を立てた。

やめてください。
可愛い後輩仕草を商談中にしないでください。
しかし、少しだけ救われました。ありがとうございます。