貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

榊課長が缶コーヒーを持ち上げた。

けれど、飲む前に一度止まった。

私は見てしまった。

缶が熱いのだろう。
課長は、ほんの少しだけ警戒している。

今、この空気の中で、熱い飲み物に警戒している。

だめだ。
笑ってはいけない。
今は笑う場面ではない。

「藤代」

「はい」

「顔」

「顔は元からあります」

「笑うな」

「笑っていません」

「下手になったな」

その言葉に、胸が妙に跳ねた。

隠すのが下手になった。
そう言われた気がした。

瀬名が、私と榊課長を交互に見た。

「へえ」

やめて。
その「へえ」は、何かを観察した人の「へえ」だ。

観察する側は私でいたい。
見られる側に回るのは、心臓に悪い。