貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

瀬名が笑った。

「じゃあ、先輩の昼休み、課長も知ってたんですね」

空気が、ほんの少し変わった。

榊課長の目が細くなる。

「お前は、何を知っている」

瀬名の笑顔が、薄くなった。

「課長こそ、何を知ってるんですか」

やめて。

ここは公園です。
商談でも会議室でもありません。
しらたまが毛づくろいしている平和な空間です。

なのに、なぜ急に空気が取引先との最終交渉みたいになるのか。

私はiPadを抱え直した。

「お二人とも、あの」

「藤代」

「先輩」

同時に呼ばないでください。

心臓が、どちらに返事をしていいか分からず迷子になる。

榊課長は瀬名を見たまま言った。

「私的なものだ。面白がるな」

「面白がってません」

瀬名の声から、いつもの軽さが少し消えた。

「先輩の見る力、仕事で使えると思ってます」

榊課長の視線が、わずかに動いた。

その一瞬で、二人とも理解したのだと思う。

自分だけが、私の秘密を知っていると思っていた。
けれど、違った。

榊課長も知っている。
瀬名も知っている。

最悪である。

いや、最悪という言葉では足りない。
これはもう、秘密の共有者増殖事故だ。労災認定を求めたい。