貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「先輩の感情導線、俺の現場写真と相性いいです。だったら、俺の動き、もっと観察してください。営業の場で、人がどこで警戒して、どこでほどけるか。そういうの、先輩なら拾えるでしょ?」

それは、思ったより真面目な話だった。

瀬名は、私の秘密を笑わなかった。
そして、榊課長と同じように、それを仕事へつなげようとしている。

怖い。

なのに、少しだけ嬉しい。

知られたら終わりだと思っていたものが、また終わらなかった。
終わらないどころか、別の人の口から「使える」と言われた。

そんなこと、心の準備が追いつかない。

「……私、そんな大したものじゃ」

「先輩」

瀬名が、私の言葉を遮った。

笑っているのに、目は笑っていなかった。

「逃げないでくださいね」

その瞬間、低い声が背後から落ちた。

「何から逃げるんだ」

私の血液が、二度目の退勤をした。