貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「先輩」

瀬名が、ベンチの端で少し身を乗り出した。

昼休みの公園。
私の聖域。
そして今や、秘密が二度も発掘された発掘現場。

「俺、ちゃんと秘密守ります」

「……ありがとうございます」

「でも、守るだけじゃ、つまらないな」

「そこが怖いんですけど」

「怖がらなくていいですよ」

瀬名はにこっと笑った。

いつもの、人懐っこい大型犬の顔だ。
だが私はもう知っている。

この犬は、たまに目が狼になる。

「俺のこと、じっくり見ていてくれて嬉しいな」

私は固まった。

言葉の選び方が危険すぎる。三十二歳女性の心拍数を考えてほしい。

「瀬名くん」

「はい」

「その言い方は、非常に誤解を招きます」

「誤解って、どんな?」

声が、少し低くなった。

私は即座に視線を逸らした。

やめてください。
二人きりの低音は、社会人の昼休みに出していい音域ではありません。