貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

私はiPadを抱え込んだ。

「趣味です。誰にも見せていません。投稿もしていません。会社の人をそのまま描いているわけでもありません。関係性の、空気感の、構図の、創作で」

早口になった。
しかも、一度言ったことのある説明だ。
再放送だ。
視聴率は最悪である。

瀬名は、少しだけ眉を寄せた。

「先輩」

「はい」

「息、してください」

私は吸った。

していなかったらしい。

「先輩」

「はい……」

「見ました」

「ですよね」

「俺と、課長っぽい人もいました」

私は口を閉じた。

瀬名は回り込み、私と反対のベンチの端に座った。
真後ろから隣になった分、さっきより少しだけ距離がある。
その距離の取り方に、かえって胸が詰まった。

踏み込まない。
でも、逃がさない。

「公開してないんですよね」

「してません。絶対に」

「誰かを笑わせるためでもない」

「違います」

「じゃあ、俺は笑いません」

私は顔を上げた。

瀬名の目は、真剣だった。

「先輩が人のことちゃんと見てる理由、少し分かった気がします」

その言葉に、喉の奥が熱くなった。

やめてほしい。

瀬名まで、そんなふうに言わないでほしい。

榊課長に見られた時も、私は笑われなかった。
むしろ、仕事に使えると言われた。

そして今、瀬名も笑わない。

怖かったはずなのに。
知られたら終わると思っていたのに。

終わらない。

それが、いちばん怖い。