貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

その日のお昼、私はいつもの公園のベンチに座り、BL漫画の続きを描いていた。

クールな上司風の男が「ご褒美に、お前の好きなものを注文しろ」と言う。
それに対して、犬系後輩風の男が「ご褒美はあなたじゃダメですか?」と答える。
駅ナカカフェらしき場所。
斜め横に立つ距離。
意味深に近い視線。

尊い。

「……先輩?」

いつの間にかすぐ真後ろで、聞き覚えのある声が聞こえた。

終わった。

二度目だ。

私の血液が、全身から一斉に退勤した。
人間はなぜ、同じ種類の地雷を二度踏むのか。
学習能力はどこへ行った。

私は恐る恐る振り向いて、声の主である瀬名の姿を確認した。
なぜ、周りに気づかなくなるくらい集中しすぎるのか。

私はハッと気づいて、反射的にiPadを閉じようとした。

しかし、焦る手は、やはり裏切る。

スリープボタンを押すつもりが、画面を拡大してしまった。

やめて。
拡大しないで。
私の罪を高解像度にしないで。

「ち、違います」

私は言った。

まただ。
また何が違うのか分からない第一声を放っている。

瀬名は黙って画面を見ていた。

普段の明るい笑顔は消えていた。
でも、嫌悪ではなかった。
からかいでもなかった。

ただ、驚いている。

そして、理解しようとしている。

その沈黙が、逆に怖かった。

「これは、その、資料ではなく」

「資料には見えないですね」

「ですよね」

なぜ人は、極限状態で正直な返事をするのだろう。