貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「瀬名」

榊課長の声が飛んだ。

「はい」

瀬名は瞬時に表情を仕事用に切り替えた。

やっぱり、ただの犬ではない。

「十時に打ち合わせ。札幌店の補足を出せ」

「承知しました」

「土産はあとにしろ」

「はーい」

そのやり取りを見ながら、私は脳内でそっと線を引いた。

冷たい猫と、晴れた日の犬。

同じ空間にいるだけで、対比が強い。
強すぎる。
描くな。
描いてはいけない。

私は心の中のペンを床に置いた。
できれば踏んで折りたい。