貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

榊課長は、店内に目を戻した。

「二人で見るなら、案内表示は視線の共有点に置くべきか」

「はい。二人の目線が揃う場所にあると、会話しなくても分かります。たとえば、『奥に二人席あります』が入口の正面ではなく、少し奥に見える位置にあると、二人で自然に進めると思います」

「なるほど」

榊課長が、私の手元のメモを覗き込んだ。

近い。

近いです課長。
感情がキャパオーバーしてしまいます。

私はメモに視線を落としたまま、必死に社会人としての平静を保った。

この距離は取材。
これは仕事。
これは感情導線の確認。
断じて、ときめきイベントではない。