貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

昼休み、私たちはリュミエールの近隣店舗に向かった。

前回と同じ駅ビルの店。
昼のピーク直前で、入口にはすでに数人が並んでいる。

榊課長は店の外で足を止めた。

「一人客の目線」

「はい」

私は入口の横に立ち、人の流れを見た。

メニューを見る人。
奥の席を覗く人。
列の最後尾を探す人。
スマホを見ながら、入るかどうか迷う人。

「やっぱり、席が見えないと止まります」

「止まる位置は」

「ここです。入口から二歩手前」

私が床を指すと、榊課長がその位置に立った。

「ここか」

「はい。そこに立つと、メニューは見えますが、席は見えません。列に入るには少し勇気がいります」

「お前なら入るか」

「一人なら、混んでいる日はやめるかもしれません」

「理由は」

「席がなかった時、トレーを持って立ち尽くすのがつらいので」

言ってから、私は自分で笑いそうになった。

トレーを持って立ち尽くす。
字面が地味なのに、人生の寂しさが詰まっている。