貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「ランチ客の感情導線を、四つに分けます」

私は画面を切り替えた。

入る前。
並ぶ時。
席を探す時。
出る時。

「入る前は『座れるか不安』。並ぶ時は『待たせていないか不安』。席を探す時は『ここにいていいか不安』。出る時は『午後の仕事に戻るための切り替え』です」

会議室が静かになった。

やめてください。
静かになると、私は自分がとんでもないことを言っている気がしてくる。

しかし、榊課長はモニターを見たまま言った。

「採用する」

「……はい?」

「ランチ導線はこれを軸に組む。真鍋、店頭サインと席種表示のラフを起こせ。営業はオペレーション側の声かけ案を作れ。藤代は感情導線を資料化。瀬名の現地ヒアリングと突き合わせろ」

採用。

採用された。

私の言葉が、会議の中で企画になった。

嬉しい。
怖い。
逃げたい。
でも、嬉しい。

感情が同時多発して、脳内の交通整理員が笛を投げ捨てた。

「藤代」

「はい」

「今の説明、次の社内レビューでも使う」

榊課長は、本当に人を逃がす気がない。
罠にかかった小動物に対して「自力で出ろ」と言うタイプだ。
ただし出口の方向だけは正確に示してくる。