貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

十時の会議で、私は本当に昼導線案を説明することになった。

モニターには、瀬名から届いた札幌店舗の写真。
その隣に、私が昨日作った感情導線シート。
そして今日、震える手で追加した新しい見出し。

昼。「見えない不安を、見える安心へ」

私はモニターを見ながら話し始めた。

「昼の利用者は、滞在時間が短い分、迷う時間も短くしたいはずです。ただ、急がせすぎると、店に入る前から疲れます。昼は、仕事から一度離れたい人が多いと思うので、機能的な分かりやすさと、少しだけ守られている感じを両立させたいです」

真鍋がペンを持ち上げた。

「守られている感じって、昨日の一人席の話ですよね」

「はい。入口から『ここに座れるかもしれない』と分かるだけで、一人客は入りやすくなると思います。逆に二人客は、『一緒に座れる場所があるか』を探すので、席の種類を先に見せる」

「サインで出す?」

「サインと、床の誘導、あとレジ前の一言です。たとえば、昼はスタッフさんの声かけも、『お席はご注文後に。奥までご利用ください』みたいに、席を探す不安を減らす言葉にする」

営業担当の一人が頷いた。

「たしかに、写真を見ると注文後に詰まってるな」

「はい。そこで止まると、後ろの人も不安になります。行列の不安って、前の人の迷いが伝染するので」

言ってから、私は少しだけ固まった。

伝染。

人の迷いが伝染する。
これは、私がずっと見てきたものだ。

会話でも、視線でも、関係性でも。
一人が迷うと、隣の人も迷う。
一人が安心すると、空気がほどける。

漫画の中でも、現実の会議室でも、それは同じだった。