貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

終業間際、榊課長からチャットが届いた。

〈感情導線シート、確認した〉

私は背筋を伸ばした。

続けて、もう一文。

〈次回の核に使う〉

核。

私はしばらく、その文字を見ていた。

私の考えたものが、次回の核に使われる。

嬉しさと怖さが、同じくらいの強さで胸に広がる。

すると、さらにメッセージが来た。

〈明日、瀬名から札幌店舗の写真が入る。受け取ったら、今日のシートに足せ〉

仕事の連絡だった。

普通の連絡。
上司から部下への指示。

それなのに私は、少しだけ笑ってしまった。

秘密を知られた。
でも、脅されているわけではない。
隠してきたものを、雑に扱われてもいない。

むしろ、仕事として見られている。

怖い。
まだ怖い。

でも、怖いだけではない。

私はバッグの中のiPadに触れた。

昨日まで、それは弱みだった。
見られたら終わりのものだった。

けれど今日、榊課長はそれを笑わず、仕事の言葉に変えた。

公園のベンチ。
熱いコーヒー。
キャラメルナッツケーキ。
しらたまに向けた、やわらかい声。

その全部が、私の中でゆっくり混ざっていく。

初めて思った。

秘密を知った榊課長は、怖いだけの相手ではないのかもしれない。