貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

榊課長は私を一瞥し、今度はケーキをフォークで切った。
一口食べる。

表情は変わらない。

けれど、さっきより少しだけ目元が緩んだ気がした。

「おいしいんですか」

「甘い」

「感想がそのままですね」

「甘いものは、甘い方がいい」

「仕事では無糖ブラックみたいなのに」

言ってから、私は全身が固まった。

しまった。

大崎との雑談で言っていた表現が、そのまま口から出た。

終わった。
今度こそ終わった。
趣味バレに続き、上司を無糖ブラック呼ばわり。
私の社会人人生、打ち切り第二弾。

榊課長は紙カップを置いた。

「大崎か」

「……すみません」

「だろうな」

「本当にすみません」

「別にいい」

いいのか。

榊課長は少し冷ましたコーヒーを、慎重に飲んだ。
慎重すぎるほど慎重に。

その姿に、胸の奥が変にやわらかくなった。