貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

真鍋が資料に目を落とした。

「時間帯別でコピーと店頭サインのトーンを変えるのは、ありですね。朝は機能、夜は情緒。昼は?」

「昼は……逃げ場、でしょうか」

「逃げ場」

「いえ、悪い意味ではなくて。仕事の合間に一人で来る人って、誰かと話したいわけじゃないけど、完全に孤独になりたいわけでもない気がします。周りに人はいるけど、自分の席だけは守られている感じ、というか」

私は言いながら、ふと気づいた。

これ、私はいつもの公園のことを言っている。

会社から少し離れたベンチ。
人はいる。
けれど、誰も踏み込んでこない。
好きなものを、好きなままでいられる場所。

リュミエールの客にも、そういう場所が必要なのかもしれない。

「一人客向けの席導線と、待ち合わせ客向けの導線を分ける案は作れる」

真鍋が、ペンを動かしながら言った。

「藤代さんの言った『守られている感じ』、視覚化できるかも」

私は思わず真鍋を見た。

今、認められたのだろうか。