貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

十時前、第一会議室に向かうと、すでに数人が席についていた。

営業担当の二人。
デザイナーの真鍋美緒。
大崎。
そして、榊課長。

黒いスーツ。
乱れのない髪。
無表情。

昨日、猫に向かって、やわらかい声を出していた人物と同一とは思えない。

「藤代」

「はい」

「そこ」

榊課長が示したのは、末席ではなかった。

会議テーブルの中央寄り。
資料投影用モニターが見やすく、発言者の顔も見える位置。

私は一瞬ためらった。

「……こちらでよろしいんですか」

「見えない席に座ってどうする」

「議事録でしたら」

「今日は議事録だけではない」

短い。
そして逃げられない。

私は席につき、ノートを開いた。

真鍋がこちらをちらりと見た。
社内デザイナーの彼女は、いつも服も髪もきちんとしていて、仕事中の視線が鋭い。
悪い人ではない。
けれど、これまで私を見る目はだいたい「頼れるアシスタントさん」だった。

企画メンバーとしてではない。

それは当然だと思う。
私自身、自分をそう見てきたのだから。

「始める」

榊課長の声で、会議室の空気が締まった。