貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

その直後、私のパソコンに通知が届いた。

差出人は、榊課長。

件名。
【リュミエール案件/会議招集】

参加者の欄に、見慣れた名前が並んでいた。
榊玲司。真鍋美緒。営業担当数名。大崎沙月。
そして。

藤代澄乃。

私は画面を見つめた。

ほんの数時間前まで、私はこの案件の補助役だった。
議事録を取り、資料を整え、会議室を予約する人間だった。

それが明日から、会議の中に入る。

しかも、理由の一部はたぶん、あのiPadだ。

弱み。
恥ずかしい秘密。
知られたら終わりだと思っていたもの。

それが、仕事に繋がるかもしれない。

そんな都合のいいことがあるだろうか。

「藤代さん?」

大崎が声をかけてきた。

「大丈夫? なんか、世界の終わりみたいな顔してる」

「大丈夫です」

「本当に?」

「明日から、榊課長の案件に入ることになりました」

「えっ、リュミエール?」

「はい」

「すごいじゃない」

「すごいんでしょうか」

「すごいよ。榊課長、人を適当に入れないもん」

大崎は、にやりと笑った。

「見込まれたんじゃない?」

「見込まれた……」

見込まれた。

その言葉は、少しだけくすぐったかった。
でも同時に、胃のあたりを重くした。

見込まれるというのは、期待されているということだ。
できると思われることだ。
逃げられないということだ。

私はパソコンの画面を閉じ、バッグの中のiPadにそっと触れた。

あの画面を榊課長に見られた。
恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。人生終了レベルで恥ずかしい。

でも、思い出すのは、笑われた顔ではなかった。

『お前が何を好きでも、仕事の評価とは関係ない』

低くて、短くて、そっけない言葉。

なのに、その言葉だけが、妙に残っている。