貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

数日後。

リュミエールの三店舗テスト導入に向けたキックオフが始まった。

私は、会議室の中央寄りの席に座っていた。

最初にこの席を指された時、内臓が退職願を書いた。
今でもたまに書きかける。
でも、最近は動揺が減っている。

「藤代、昼の声かけスクリプト」

榊課長が言った。

「はい。現場の方が使いやすいように、三段階に分けました」

私は資料を配る。

「入口で迷っている方には、お一人席、奥にございます。注文後に席を探している方には、奥の席までご利用いただけます。混雑時には、ご注文後にお席をご案内しますので、少々お待ちください」

瀬名が頷く。

「現場でも言いやすいですね。長すぎない」

真鍋がラフを確認する。

「サインの言葉とも合わせます」

大崎が進行表にチェックを入れる。

「よし。次、アプリ通知」

榊課長は、資料を見ながら短く言った。

「よし。現場に伝えよう」

その一言で、胸の奥が温かくなる。

でも私は、ただ照れるだけではなく、頷いた。

「ありがとうございます。次の店舗ヒアリングで、言葉の使いやすさを確認します」

前に出る。

自分の言葉で、仕事を進める。

それが少しずつ、私の中で当たり前になっていく。