貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会社に戻ると、部署は小さな拍手で迎えてくれた。

「本提案、通ったって?」

「三店舗テストですか? すごいですね」

「藤代さん、声かけスクリプトも担当するんだって?」

声が飛んでくる。

私は少しだけ戸惑いながら、でも逃げなかった。

「はい。まだこれからですが、進めます」

進めます。

その言葉が、自分の口から出る。

資料を整えるだけではなく。
会議室の端に座るだけではなく。
自分の視点で、仕事を進める。

怖い。

でも、怖いだけではない。

大崎が、私の背中を軽く叩いた。

「かっこいいじゃん」

「慣れません」

「慣れな」

「それ、前にも言いました」

「何度でも言う。褒められ慣れも業務のうち」

少し笑っていると、瀬名が紙袋を持ってやってきた。

「お祝いです」

「何ですか?」

「甘いのと、甘くないの」

榊課長が、少し離れた場所からこちらを見た。

「瀬名」

「はい。業務外です」

「戻れ」

「業務に戻ります」

瀬名は、ひらりと手を振って笑った。

その笑顔は明るかった。

少しだけ痛みを含んでいるのかもしれない。
でも、彼はそれを人に押しつけなかった。

だから私は、ちゃんと笑って返せた。