貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

提案が終わると、会議室の空気がゆっくり動いた。

役員が資料をめくり、久保田部長と短く言葉を交わす。

そして、久保田部長がこちらを見た。

「この方向で進めましょう」

一瞬、呼吸を忘れた。

「三店舗でのテスト導入を前提に、具体的な展開案に入ってください。特に昼導線とコピーは、現場研修にも組み込みたいです」

三枝が、私を見る。

「藤代さん、声かけスクリプトの部分、引き続きお願いできますか」

私は、背筋を伸ばした。

「はい。現場の方が使いやすい言葉に調整して、瀬名と確認します」

言った。

自分から、引き受けた。

以前の私なら、「私でよければ」と言っていた。
今も謙虚さは必要だ。
でも、必要以上に自分を小さくする必要はない。

真鍋が、隣で小さく頷いた。

榊課長は何も言わなかった。

ただ、資料を閉じる瞬間、ほんの一瞬だけ私を見た。

その目が言っていた。

悪くない。

口に出さないのに分かった。

分かってしまう私も、だいぶ危険である。