貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

本提案当日。

リュミエール本部の会議室には、これまでで一番多くの人が集まっていた。

久保田部長。
三枝。
店舗オペレーション担当。
商品企画担当。
広報担当。
そして、役員の一人。

資料の表紙が映る。

『三分だけ、あなたの味方になる。』

私は、モニターの前に立った。

足は震えていない。

いや、少し震えている。
でも、立っている。

「リュミエールは、駅ナカという場所にあるからこそ、お客様と長く一緒にはいられません」

私は、会議室を見渡した。

「けれど、短い時間だからこそ、その人の一日の中で必要な味方になれると考えました」

朝。
昼。
夜。

スライドが切り替わる。

「朝は、迷わせないことで背中を押す。昼は、居場所を見せることで安心をつくる。夜は、帰る前に気持ちをほどく余韻を残す」

以前の私なら、ここで自分の言葉を薄めた。

快適なランチタイム。
分かりやすい導線。
利用満足度の向上。

もちろん、それらも大事だ。
でも、それだけでは人の気持ちは動かない。

だから今日は、逃げない。

「今回の提案は、時間帯別の施策ではなく、お客様とリュミエールの関係が少しずつ深まる流れです。最初は便利だから入る。次に、安心して入れるようになる。最後に、今日もここで息をつけると思って戻ってくる」

私は、最後の一文をまっすぐ言った。

「短い時間でも、また戻りたくなる関係を作る。それが、今回のリブランディングの軸です」

静かになった。

でも、もう静寂を恐れなかった。