貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

本提案は、翌週の水曜に決まった。

そこからの日々は、忙しかった。

でも、以前の修羅場とは少し違った。

私はもう、補助席に座っていなかった。

会議の中央に資料を広げ、自分から意見を出す。

「昼のコピーは、もう少し『逃げる』の温度を残したいです。逃げるって悪い言葉に見えますけど、働く人には必要な感覚なので」

真鍋が、すぐにラフへ線を引く。

「なら、『ひと息だけ、逃げてもいい』はどうですか」

「強いですね。でも、店頭サインだと少し重いかも。アプリ通知ならありです」

「店頭は?」

「『ひと息つける席、あります』くらいに落とすと、現場で使いやすいと思います」

真鍋が頷く。

「分かりました。店頭は安心、アプリは本音に寄せます」

以前なら、デザイナーの真鍋に意見を言うだけで、私は内臓をひとつ失っていたと思う。

でも今は、怖いながらも言える。

私の言葉が、誰かの手で形になる。
誰かの形が、私の言葉をもっと強くする。

それは、仕事の中でしか味わえない喜びだった。