貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

決め台詞というものがある。

物語の中で読めば、私はたぶん膝を抱えて転がっていた。
ページを閉じて、また開いて、もう一回読んで、心の中で「ありがとうございます」と世界に祈っていた。

でも現実で言われると、人は転がれない。

ただ、泣きそうになる。

榊は、私をまっすぐ見た。

「上司としてではなく、榊玲司として言う」

心臓が、痛いくらい鳴っている。

「君が好きだ」

言葉は短かった。

でも、まっすぐだった。

逃げ場がないくらい、まっすぐ。

「君が人を見て、迷いを拾って、怖がりながら前に出るところが好きだ。好きなものを恥じているくせに、それを捨てられないところも。笑うと隠すのが下手になるところも」

「……それ、褒めていますか」

「褒めている」

真顔で言うから、困る。

胸が熱くて、顔も熱くて、頭の中の語彙がまた散っていく。

でも、逃げたくなかった。