貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「瀬名くんのことは、大事です。助けられました。見ていてくれたことも、すごく嬉しかったです」

「……あいつは、見るところがいい」

声は低かった。

けれど、そこに以前のような硬さはなかった。

「でも、私が好きなのは、榊さんです」

言った。

言ってしまった。

世界が一瞬、止まった気がした。

鳥の声も、遠くの車の音も、自動販売機の低い機械音も、全部遠くなる。

私の心臓だけが、やたら現実的な速度で鳴っている。

榊は、黙っていた。

長い。

長いです、榊さん。

沈黙は私の自己否定を呼ぶ装置です。
今、脳内では「やはり早まったのでは?」「社会人としてアウトなのでは?」「そもそも昼休みの公園で何を告白しているの?」という会議が開催されています。

私は耐えきれず、視線を落とした。