貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

榊は、缶コーヒーを膝の上に置いた。

そして、短く言った。

「最近、君から距離を取っていた」

胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。

「はい」

「正しいと思った」

「……はい」

「上司だから。責任者だから。君の評価に関わる立場だから。噂もある。瀬名のこともあった」

瀬名の名前が出て、指先が少し震えた。

夜の公園。
低い声。
私の手首に触れた指。
「俺、先輩のことが好きです」と言った目。

そして、それを見ていた榊。

私は膝の上で手を握った。

「瀬名くんには、返事をしました」

榊の目が、わずかに動いた。

「そうか」

「はい」

言葉が喉に引っかかる。

でも、逃げたくなかった。

瀬名は言った。
なかったことにしないでください、と。

だから、私は言う。