貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「これから、仕事じゃない話をする」

榊課長――いや、榊さんは、そう言った。

昼休みの公園。

会社から七分。
駅前の喧騒から少し外れた、細長い公園。
ベンチが三つ、古い桜の木、自動販売機、そして白っぽい猫のしらたま。

私がひとりで秘密を抱えていた場所。

その場所で、榊は缶コーヒーを片手に立っていた。

たぶん、ホットだ。
なぜなら、彼は缶を持つ指先に微妙な警戒をにじませている。

熱いのだろう。
過去の経験に基づく判断なのだろう。

いつもなら、私はそこで笑っていた。
「熱いんですか」と聞いて、榊が「たぶん」と答えて、私は口元を押さえる。

でも今日は、笑えなかった。

榊の目が、いつもと違っていたからだ。

仕事中の冷静な目ではない。
猫を見るときのやわらかい目でもない。
私の資料を評価するときの鋭い目でもない。

逃げるのをやめた人の目だった。