貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

翌日の昼休み。

私は、いつもの公園へ向かった。

会社から七分。
駅前の喧騒から少し外れた、細長い公園。
ベンチが三つ、古い桜の木、自動販売機。
そして、ベンチの下で丸くなるしらたま。

秘密の場所だった。
弱みを隠す場所だった。
それがいつの間にか、仕事の始まりになって、恋に気づく場所になった。

私はベンチに座った。

iPadは出さなかった。

今日は、描くために来たのではない。

会いたいと思って来た。

その事実に、耳が熱くなる。

しらたまが、ふいに顔を上げた。

自動販売機の方から、足音がした。

黒いスーツ。
整った髪。
手には、缶コーヒー。

榊課長だった。

私は立ち上がった。

「榊課長」

声が、少し震えた。

榊課長は私の前で足を止めた。

いつもの無表情。
でも、目は逃げていなかった。

「藤代」

「はい」

彼は缶コーヒーを持ち上げかけて、少しだけ止まった。

熱いのだろう。

それなのに私は、笑えなかった。

榊課長は、低く言った。

「これから、仕事じゃない話をする」