貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

夜、ほとんどの人が帰ったあと、私は給湯室の前で瀬名に呼び止められた。

「先輩」

「はい」

「返事、聞かなくても分かってます」

胸が痛んだ。

「瀬名くん」

「でも、ちゃんと言ってください。俺、ちゃんと振られたいです」

彼は笑っていた。
でも、目は真剣だった。

私は息を吸った。

「瀬名くんのこと、大事です。すごく助けられました。見ていてくれたことも、嬉しかったです」

「はい」

「でも、私が好きなのは……たぶん、榊さんです」

課長ではなく。

榊さん。

その呼び方が、自分の口から出た瞬間、胸が熱くなった。