貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会議が終わったあと、私は廊下で少しだけ立ち止まった。

足元がふわふわする。
緊張が解けたせいかもしれない。
それとも、胸の中にあるものを、もう知らないふりできなくなったせいかもしれない。

「藤代さん」

大崎が隣に並んだ。

「よかったよ」

「ありがとうございます」

「ほら、好きなものから逃げると資料も恋も薄まる」

「急に恋を混ぜないでください」

「混ざってる顔してるから」

私は顔を覆いたくなった。

「社会人として由々しき事態です」

「人間としては進歩」

大崎は笑った。

瀬名は、少し離れた場所で見ていた。
私と目が合うと、軽く笑った。

その笑顔は、優しくて、少しだけ寂しかった。