貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

その日の午後、瀬名が私の席へ来た。

「先輩、少しだけいいですか」

声は明るい。
でも、目が笑っていない。

「仕事ですか」

「仕事から始めます」

またそれだ。

私たちは小会議室に入った。
瀬名は、リュミエールの書類を広げながら言った。

「ここ、昼の一人席導線。先輩のコピー、少し弱くなってます」

「……分かりますか」

「分かります」

即答だった。

「『居場所を見せる』って言っていたのに、今は『快適な席をご案内』になってます。無難です。悪くはないです。でも、先輩じゃなくても書ける」

胸が痛んだ。

無難に逃げた。
自分でも分かっていた。

「課長が直接見ないからですか」

心臓が跳ねた。

私は資料を見たまま言った。

「……関係ありません」

「嘘ですね」

「瀬名くん、最近その言葉、使用頻度が高すぎます」

「先輩が嘘をつく頻度が上がってるからです」

返せない。