昼休み、私はいつもの公園へ行った。
ベンチに座り、バッグからiPadを取り出す。
画面を開く。
描きかけのネームが映った。
クールな上司風の男と、犬系後輩風の男。
以前なら、距離ひとつ、視線ひとつで、心の中のペンが勝手に走った。
でも今日は、線が引けなかった。
上司風の男の表情を描こうとすると、榊課長の横顔が浮かぶ。
後輩風の男の手を描こうとすると、昨夜、私の手首に触れた瀬名の指が蘇る。
そして、黒い背中が遠ざかる。
私はペンを置いた。
「描けない……」
しらたまが、ベンチの下からこちらを見た。
「違うの、しらたま。創作の危機とかではなく、人生の整理が追いついていないだけで」
猫に言い訳してどうする。
しらたまは興味がなさそうに瞬きをした。
いつもなら、この時間のどこかで榊課長が来る。
自動販売機の前で、猫にだけ声をやわらかくする。
けれど今日は、来なかった。
ベンチの隣は空いている。
自動販売機の前も空いている。
公園は静かで、安全で、誰にも踏み込まれない。
なのに私は、少しも安心できなかった。
ベンチに座り、バッグからiPadを取り出す。
画面を開く。
描きかけのネームが映った。
クールな上司風の男と、犬系後輩風の男。
以前なら、距離ひとつ、視線ひとつで、心の中のペンが勝手に走った。
でも今日は、線が引けなかった。
上司風の男の表情を描こうとすると、榊課長の横顔が浮かぶ。
後輩風の男の手を描こうとすると、昨夜、私の手首に触れた瀬名の指が蘇る。
そして、黒い背中が遠ざかる。
私はペンを置いた。
「描けない……」
しらたまが、ベンチの下からこちらを見た。
「違うの、しらたま。創作の危機とかではなく、人生の整理が追いついていないだけで」
猫に言い訳してどうする。
しらたまは興味がなさそうに瞬きをした。
いつもなら、この時間のどこかで榊課長が来る。
自動販売機の前で、猫にだけ声をやわらかくする。
けれど今日は、来なかった。
ベンチの隣は空いている。
自動販売機の前も空いている。
公園は静かで、安全で、誰にも踏み込まれない。
なのに私は、少しも安心できなかった。



