貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

正しさは、ときどき凶器になる。

榊課長は正しかった。

朝の挨拶は返す。資料の確認はする。指示は明確で、仕事の判断は速い。
誰が見ても、営業推進部課長として何ひとつ間違っていない。

ただ、私の席の横で足を止めない。
熱い紙カップを持っていても、眉間に皺を寄せても、こちらを見ない。

これまでが近すぎただけ。

そう思おうとした。
思おうとしたのに、胸の奥がずっと落ち着かない。

距離があることは、本来なら安全なはずだった。
誰にも見られない。
噂にもなりにくい。
上司と部下として、健全で、適切で、社内規定に照らしてもたぶん問題ない。

なのに私は、正しさの中で少しずつ息がしづらくなっていた。