貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「ち、違います」

私は言った。

何が違うのか、私にも分からなかった。

「違うのか」

「違います。これは、その、資料ではなく」

「資料には見えない」

「ですよね」

「漫画か」

「ネームです」

「ネーム」

「漫画の設計図みたいなもので……いえ、違います、そういう説明をしたいわけではなく」

語彙が散った。
焦ると語彙が散る。
しかも今回は焦りだけではない。羞恥と恐怖と社会的死が混ざっている。

榊課長は、少しだけ目を細めた。

「この男」

「はい?」

「俺に似ている」

心臓が止まるかと思った。

「に、似てません!」

「そうか」

「似てません。まったく。完全に。概念です」

「概念」

「はい。冷静で仕事ができて、少し厳しくて、でも本当は相手をちゃんと見ている、そういう概念の上司であって、特定の個人ではなく」

榊課長は、もう一度画面を見た。
そして、淡々と言った。

「お前、俺のこと興味ないと思ってたけど、そういう目で見てたんだな」

私は固まった。