貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

店内に入ると、夕方のリュミエールは、昼とは違う空気をまとっていた。

人の流れが少しゆるく、照明が温かい。

仕事帰りの人が、カップを片手にスマホを見ている。

二人連れが、奥の席で小さく笑っている。

私はその光景を見て、自然に目で追っていた。

どこで足が止まるか。

どこで視線がほどけるか。

どの席に座ると、肩の力が抜けるか。

「また見てますね、先輩」

瀬名が隣で言った。

「癖です」

「武器ですよ」

さらっと言わないでほしい。

照れる。

武器と言われるのは、まだ慣れない。

でも、弱みと言われるよりずっといい。