貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

会議室を出る時、みんなはそれぞれ荷物をまとめていた。

大崎は「明日は定時で帰る、絶対」と宣言し、真鍋は「それ、毎回言ってますよ」と淡々と返した。

瀬名は、私の横に来て小さく言った。

「先輩、今日は逃げなかったですね」

その声は優しかった。

その時、榊課長の声がした。

「瀬名」

「はい」

「明日の現場根拠、朝一で追加しろ」

「分かってます」

「藤代を遅くまで引き止めるな」

瀬名が、少しだけ笑った。

「課長がそれ言います?」

空気が一瞬だけ止まった。

やめて。

深夜の会議室で、上司と後輩の静かな火花を散らさないでください。

しらたまもいないのに、場が保ちません。

榊課長は無表情のまま言った。

「業務だ」

「便利な言い方ですね」

瀬名が返す。

私は思った。

この二人、なぜ仕事の会話で張り合えるのか。

そしてなぜ私は、その間にいるのか。

人生の配置ミスではないだろうか。