貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

作業は二十二時を過ぎて、ようやく一区切りついた。

榊課長が、修正版の骨子をクライアントへ送る。

送信ボタンを押した瞬間、会議室に沈黙が落ちた。

全員、少しだけ放心している。

私は椅子にもたれた。

「生きています」

「宣言しないと分からない状態なの?」

大崎が笑った。

「半分くらい魂が出ています」

「戻して。明日もあるから」

瀬名が、紙袋から何かを取り出した。

「今さらですけど。糖分入れましょう」

配られたのは、コンビニで売っている小さなチョコレート菓子だった。

榊課長も一つ受け取った。

そして、何事もなかったように食べた。

甘党。

鬼課長、深夜の糖分補給。

私はつい見てしまった。

榊課長がこちらを見る。

「何だ」

「いえ。甘いものは、甘い方がいいんですよね」

「そうだ」

真顔で答えられた。

大崎が「何その会話」と笑い、瀬名が「課長、甘党なんですか?」と目を丸くする。

榊課長は、短く言った。

「悪いか」

「いえ、ギャップが強いです」

瀬名くん、よく言った。

心の中で拍手した。