─蓮Side─
「よし、家に到着っ!もう大丈夫だから安心したまえ」
兄貴に頼まれて俺を迎えに来た幼馴染みが、親指を立てながら言う。あれほど嫌な気配がしていた後ろを何度見ても、あの女はいない。心なしか体も軽い気がするので、今夜は久しぶりに良く眠れそうだ。
最近悩まされていたことが解決してホッとしていると、ガチャ、目の前の家のドアが開いた。そこから漏れる明かりに照らされながら現れたのは、五つ上の俺の兄だった。
「やっと帰ってきた…!よかった…凛月ちゃん、弟を迎えにいってくれてありがとうね」
「あ、皐さんっ!どういたしまして~
じゃあ、二人ともおやすみ」
凛月は俺たちに手を振ると、俺の隣の家ーーー自分の家に帰っていった。
沈黙を先に破ったのは俺の肩に手を乗せた兄だった。
「いやぁ、全然帰ってこないから超心配したよ~」
「悪い。電話も繋がらなくてさ」
「マジで?かなり絶体絶命だったんだね…でも無事で良かったよ」
兄が心底ほっとしたような顔をしたあとに、俺の買い物袋を見てハッとした。
「そういえば、アイス買ってくるって言ってなかった?流石に溶けてるよね…」
「あー…でもアイツが食べたときはあんま溶けてなかった気がする」
試しに触ってみたら、まだ固かった。謎のループを食らっていた間は時間が止まっていたのかもしれない。知らねぇけど。
袋の中を確認する俺に、兄貴が首を傾げる。
「凛月ちゃん、アイス食べたの?」
「ああ。勝手に人の買い物を漁った上に勝手に食べやがった」
「ははっ、凛月ちゃんらしいなー
…ちなみに何のアイス食べてたの?」
「俺がよく食ってる棒のヤツのミカン味」
「そうだった。凛月ちゃんもこのアイス好きなんだよね」
くすくすと楽しそうに笑う兄貴と話しながら、家の中に入る。買ってきたソーダ味を兄に渡してから自分の分を取り出した。
帰路で何度も目にした明色に眉間に皺が寄る。
『────ふふ、久しぶりに食べたなぁ』
完食の証を嬉しそうに眺めていた顔を思い出して思わず瞳を細めた。
「(……コレ、1個しか買ってねぇのに、袋はどこも破れていないんだよな。アイツが食べた形跡は無い…。)」
二ヶ月ぶりに会ったソイツは、季節外れの服装を身に纏っても暑いと愚痴らなかったし、凛月から接触してきても、俺に体温(ねつ)が伝わることは無かった。
未だに信じられない事実に時々切なくなる。それでも凛月は、いつも俺のピンチに駆けつけてくれる。俺に手を差し伸べる笑顔には、感謝してもしきれない。
「(…もし次の再会があるとしたら、それはいつなんだろうか。買い物の中身を確認する前に全て言い当てたお前なら、分かるだろうか?)」
─────ガリッ、まだ見ぬ未来に想いを馳せながらオレンジ色を噛み砕いたそんな夏の夜だった。
End



