彼らの今日の青いまぼろし







「…あっいたいた~!おーい、蓮(れん)~」


八時半を過ぎた夏の夜の外で、やたらと綺麗な顔をした幼馴染みの彼をようやく見付けた。街灯の光が、合流した私たちを明るく照らす。


「凛月(りつき)…?何で居るんだよ」


「アンタがコンビニ行ったことを皐(さつき)さんから聞いてさ。てか何買ったの? んー、アイスと飲み物? おっ私の好きなミカン味あるじゃん!」


「何勝手に漁ってんだよ。…おい、俺のアイス返せや」


「ん~~~っ、冷たぁ~…!」


「……。」


隣から飛んでくる呆れと非難の視線には気付いていないフリをする。


黙々と食べる私に長い溜め息を吐いた黒髪の彼は、あつい、と不機嫌そうに呟くとスマホを片手にしながら歩き出した。


奴は足が長いので、一瞬でできた距離を埋めるために走らざるを得なくなった。むむむ、コイツ、また背伸びたんじゃない?と思いながら、前を向くラインのいい横顔を見上げた。しかし、その顔は険しい上にどこか顔色が悪い。



「ねぇアンタ、眠れてないの?目元の隈ひっどいけど」


「(コイツ、もうアイス半分も食べてやがる…。)……チッ」


「オイ、舌打ちすんな」



生意気な態度を取られてむかついたので空いている方の手で奴の頬をつねったら、険しい顔がより険しくなった。


「…チッ、そーだよ。お前の言う通りだよ」


不機嫌な声が肯定を溢す。そうかそうか。


「蓮は昔から“良くないもの”をよく引き寄せるからねぇ」


「…俺だって嫌だけどな。この不幸体質」


「ソレ、子供の頃からずーっと言ってるよね。……ねぇ、蓮」


「…何だよ」


「あんたが家を出てから一時間以上経っているって、皐さんが言っていたよ。あんたは無意味なことを嫌うから、どこかで時間を潰したり寄り道をしているとも思えなかった。行きは何の問題もなかったけど、帰り道で事件が発生した。

────あんたに憑いている幽霊のせいで」



オレンジ色を食べながら紡いだ私の言葉に、蓮が観念したように目を閉じた。本当にお前には敵わないな、と呟いて。



「でも私が来たからもう大丈夫だよ。家に着くまでは私が守るからね」


「……ん」



サンダルからは決して鳴らない音が後ろで響いている。


歩けば歩くほど、それは大きくなっていく。




















コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ














「…正直、お手上げだったんだよな。移動してんのに気が付くと来た道に戻っているから家に帰れなくてさ。


……最近、夜寝ると必ず金縛りに遭うんだよ


多分、俺たちの後ろにいる奴の仕業なんだろうな。…そうなんだろう?」



ちらりとこっちを見た漆黒の瞳に一回頷いた。



「ついでにあんたに好意を寄せているよ」


「…はー、マジ勘弁してくれ…」



心底うんざりした声に、私は苦笑するしかなかった。


女子だけじゃなく幽霊にも好かれてて大変だね。……昔から、良くないモノにしょっちゅう巻き込まれる蓮をよく助けに行っていたなぁ。



「(─────さて、後ろにいる悪い透明よ。不快だから、蓮のために消えてね。)」



再び口にした氷をガリッと噛み砕いた。




















「………急に足音が聞こえなくなったな。オマエ、何かやったのか?」



異変に気付いた蓮が足を止めて首を傾げたので、ピースと笑顔で返答すると、「さすがだな」安心した彼が顔を綻ばせた。



「ふふふ、もっと褒めてもいいんだよ?あ、アイスもう1本プリーズ」


「は?さっき食っただろうが」


「あはは、冗談だよ」


「……まぁ、別に食ってもいいけどな」



と言われたけど、蓮の家が見えてきたので、もう1本あったソーダ味のアイスは食べないことにした。


…皐さん、今も落ち着かなくて家の中でウロウロしてそうだなぁ~。灯りの付いた家を見つめていると、不意に隣にいる男に名前を呼ばれた。



「凛月」


「んー?」


「…ありがとな、助けてくれて」



私を真っ直ぐ見て言った幼馴染みの言葉が嬉しくて瞳を三日月に細めた。



「いいよ。あんたとの約束は、ちゃんと守るよ。これからもね」