20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 午後、お昼を食べたあと、私はガチャガチャコーナーのレジに入る。
 そこには何百と言うガチャガチャが置かれていて、他にゲームの筐体もある。
 なので子供や大人が入れ替わりたちかわりゲームの筐体の前に座って、お金を入れていた。
 ライダーやカプセルモンスターっていう人気のゲームの筐体、それに女の子のアイドルゲームもある。
 アイドルプリンセスっていうシリーズらしく、私はすごく心をときめかせた。
 アイドル活動のゲームは知っていたけど、アイドルプリンセスっていうシリーズは知らなかった。
 そのアイドルゲームは小さな女の子だけではなく、高校生くらいの女の子や大人の女性の姿も多かった。
 今そのゲームをプレイしているのは私と同じくらいと思われる女性だ。
 流れる音楽に合わせてボタンを押すらしい。
 シャンシャン、というボタンを押す音が聞こえてくる。
 そこにけたたましい、ビービーという音と共に近づいてくる鬼頭さんの姿が見えた。
 彼は、レジの前に立つと私にその音の原因を差し出しながら言った。

「売場で鳴ってた」

 それは、一万円くらいはしそうなフィギュアだった。鳴っていたのは窃盗防止の、黒くて四角い防犯のタグだ。
 商品から外れたり、出入り口のゲートに近づくと鳴る仕様になっている。
 私は鬼頭さんからそれを受け取り、タグをはずして専用の器具で音を止める。

「ありがとう、それ付け直しておいてくれる?」

「わかりました。あ、鬼頭さん、ちょっと聞きたいことあるんですけど」

 言いながら、私はタグを巻きつけるためのラップを、レジの後ろの棚から取り出す。

「なに?」

 レジカウンターの向こう側。
 鬼頭さんは小さく首を傾げてこちらを見ている。
 私はタグを商品に巻きつけながら、以前に聞いたVチューバーの事を尋ねた。

「あの、前に言っていたじゃないですか。プラモデルの配信しているVチューバーがいるって」

「あぁ、セナのこと?」

 その名前を聞くと、変な緊張が走る。だって赤月君と同じ名前なんだから。
 私はその緊張を誤魔化すように手を動かしつつ答えた。

「そうです、そうです。あのあと動画見たんですけど、本当にプラモを作る様子とか配信してるんですね。びっくりしました」

 この間赤月君と出掛けた日に見た、セナ=ジェイドの動画。
 おはよう配信がたくさんあって、プラモを作っている様子とか、塗装している動画とかもあった。
 ゲームも好きみたいでたまにゲームプレイ動画の配信もしているらしい。
 特におはよう配信には力を入れているみたいで、毎日九時から一時間ほどやってるようだ。
 ――赤月君との共通点、多すぎないかな。それに声がすごく似てる。マイクを通してるし、声を作ってるようにも聞こえるから微妙だけど。
 私の言葉を受けて、鬼頭さんは嬉しそうに笑う。

「そうそう、けっこう有名なんだよ。模型雑誌にも寄稿してるらしいよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。『ホビーガーデン』っていう雑誌なんだけど」

 そう鬼頭さんが教えてくれる。
 すごい。けど…
 私の中で疑惑が徐々に確信にかわりつつある。
 セナ=ジェイドは登録者二十万人。赤月君も二十万人と言っていた。
 それにプラモデルと毎日のおはよう配信。雑誌への寄稿。そこまで共通する人間、そうはいないだろう。
 でも、この間はぐらかされたことを思うと、聞いたところで教えてくれそうにないように思う。
 気になるけど……そこまで踏み込んでいいのかと思うと足踏みしてしまう。
 そもそもVチューバーが、これ、自分です、なんて周りに言うだろうか。
 顔出しをしているわけではないし、言わなければ絶対にわからない。
 だからわざわざ名乗ることもしないと思う。 
 十一月十日月曜日に、私は赤月君と会う約束を取り付けていた。
 もう少し私と赤月君の距離が縮んだら、何か教えてくれるかな。
 私は鬼頭さんに小さく頭を下げて、防犯のタグを巻きなおした商品を差し出す。

「セナってすごいんですね」

「うん、グッズも出してるし、ボイスも販売してるんだよ。さすがに俺はそこまでは興味ないけど。動画が好きなだけだし」

 グッズ。ボイス販売。まるでアイドルだ。Vチューバーってそんなことまでしてるんだ。
 後でもう少し調べてみようかな。
 そうひとり決意を固めて、私は鬼頭さんの背中を見送った。