赤月聖那。
この名前を正確に読まれることはほとんどなかった。
たいていの人が「せいな」と読むし、名前だけだと女性に間違われることも多かった。
けれど、レジにいた彼女……ヒスイは聖那のポイント会員証情報から正確に名前を呼んだ。
「……アカツキ……セナ……?」
呆然とした顔で、レジカウンターの中に立つ幼なじみのヒスイ。
八年ぶりに会う彼女は、宝石のように輝いて見えた。
今日、久しぶりに聖那はヒスイとふたりきりで会った。
それはあの、小学二年生の秋ぶりだ。
ヒスイとの時間を過ごした聖那はマンションの自室に戻り、まっすぐに寝室へと向かう。
深い緑を基調とした室内。
物が少ない寝室でまるで神像のように飾られた、アクリルケースに納められたプラモ。
聖那は灯りもつけずそのプラモの前に立ち、目を細めてうっとりとした表情で言った。
「やっとヒスイに会えたよ」
聖那の目の前にあるプラモ。
白騎士ユーリアと呼ばれるそのプラモは名前の通り白を基調としたプラモデルだ。
本来白地に紅いラインが入っているデザインだが、聖那が見つめるプラモデルは翡翠色に塗装され、ラインストーンなどで装飾されている。誰が見てもかなり手を加えられているのがわかるほどだ。
そのプラモを見つめて聖那は吐息を漏らす。
このプラモはかつて幼い日に聖那が作り、ヒスイが壊したもの。
学習机から落ち手足がもげ、細いパーツは折れてしまった。けれど聖那の手によって修復され装飾を施され、今、寝室に飾られている。
「今度こそ俺は謝れるかな。嫌いって言ったこと」
そう呟き、聖那は胸に手を当てる。
今もずっと聖那の心に傷として残る出来事。
初めてつくったプラモが壊れたのを目にして、思わず放ってしまった心にもなかった言葉。
「嫌い」と、ヒスイに言い放ってしまい、そのあとからずっとヒスイは聖那に対してそっけない態度をとり続けていた。
話しかけようとしても逃げられてしまい、ふたりの間には透明で、でも超えようのない分厚い壁ができてしまった。
壊れたプラモはこうして直せたのに、ヒスイとの関係はずっとどうにもならないままだった。
謝る機会さえ失われたまま二十年の時が過ぎてしまった。
昔は誘おうとしても避けられてしまい、ふたりきりになる機会はなかった。
二十年経ってやっと、ふたりきりで会う機会を得られた。
今日はまだ、お互いにすっぽりとあいてしまった過去を埋める作業をしただけだ。
ふたりの間にできてしまった壁。少しは薄くなっただろうか。
まだわからないけれど、聖那はプラモが入ったケースに手を伸ばす。
「この透明な壁がなくなったら俺は今度こそ君に謝りたいんだ。あの日、嫌いって言ったこと」
そのために、少しずつ少しずつ、壁を溶かしていかなければ。
そう決意して、聖那はプラモに背を向けた。
この名前を正確に読まれることはほとんどなかった。
たいていの人が「せいな」と読むし、名前だけだと女性に間違われることも多かった。
けれど、レジにいた彼女……ヒスイは聖那のポイント会員証情報から正確に名前を呼んだ。
「……アカツキ……セナ……?」
呆然とした顔で、レジカウンターの中に立つ幼なじみのヒスイ。
八年ぶりに会う彼女は、宝石のように輝いて見えた。
今日、久しぶりに聖那はヒスイとふたりきりで会った。
それはあの、小学二年生の秋ぶりだ。
ヒスイとの時間を過ごした聖那はマンションの自室に戻り、まっすぐに寝室へと向かう。
深い緑を基調とした室内。
物が少ない寝室でまるで神像のように飾られた、アクリルケースに納められたプラモ。
聖那は灯りもつけずそのプラモの前に立ち、目を細めてうっとりとした表情で言った。
「やっとヒスイに会えたよ」
聖那の目の前にあるプラモ。
白騎士ユーリアと呼ばれるそのプラモは名前の通り白を基調としたプラモデルだ。
本来白地に紅いラインが入っているデザインだが、聖那が見つめるプラモデルは翡翠色に塗装され、ラインストーンなどで装飾されている。誰が見てもかなり手を加えられているのがわかるほどだ。
そのプラモを見つめて聖那は吐息を漏らす。
このプラモはかつて幼い日に聖那が作り、ヒスイが壊したもの。
学習机から落ち手足がもげ、細いパーツは折れてしまった。けれど聖那の手によって修復され装飾を施され、今、寝室に飾られている。
「今度こそ俺は謝れるかな。嫌いって言ったこと」
そう呟き、聖那は胸に手を当てる。
今もずっと聖那の心に傷として残る出来事。
初めてつくったプラモが壊れたのを目にして、思わず放ってしまった心にもなかった言葉。
「嫌い」と、ヒスイに言い放ってしまい、そのあとからずっとヒスイは聖那に対してそっけない態度をとり続けていた。
話しかけようとしても逃げられてしまい、ふたりの間には透明で、でも超えようのない分厚い壁ができてしまった。
壊れたプラモはこうして直せたのに、ヒスイとの関係はずっとどうにもならないままだった。
謝る機会さえ失われたまま二十年の時が過ぎてしまった。
昔は誘おうとしても避けられてしまい、ふたりきりになる機会はなかった。
二十年経ってやっと、ふたりきりで会う機会を得られた。
今日はまだ、お互いにすっぽりとあいてしまった過去を埋める作業をしただけだ。
ふたりの間にできてしまった壁。少しは薄くなっただろうか。
まだわからないけれど、聖那はプラモが入ったケースに手を伸ばす。
「この透明な壁がなくなったら俺は今度こそ君に謝りたいんだ。あの日、嫌いって言ったこと」
そのために、少しずつ少しずつ、壁を溶かしていかなければ。
そう決意して、聖那はプラモに背を向けた。
