20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 結局その日、私は四時頃まで赤月君と一緒にいた。
 赤月君が住んでいるマンションは、私の最寄り駅であるすいしょうの池駅から歩いて五分の新しいマンションだった。
 駅から歩いて、

「マンション、ここだよ」

 と教えてくれた場所は私が通勤で毎日通りがかる場所で、驚きしかない。
 私はマンションを見上げ、戸惑いの声を上げる。

「めちゃくちゃ近いんだけど」

「あはは、そうみたいだね。ヒスイちゃん、またご飯誘ってもいいかな」

 私の様子を伺うように、目に不安の色を浮かべて赤月君が言う。
 私は今日の出来事を振り返る。
 話すことはたくさんあって、まだ聞けていないこともたくさんある。
 それほどに一緒の時間はあっという間に溶けてしまって、少し別れが名残惜しくなっている。
 ――もっと一緒にいてもいいのに。
 そんな想いが私の胸の中で小さくくすぶっているような気がした。
 だから私は赤月君に向かって笑って言った。

「もちろん。あとでシフト確認して休みの日のこと送るね」

 そんな私の答えに赤月君はぱっと明るい顔になる。
 なんで赤月君、私の言葉にこんな反応するんだろう。
 なんで赤月君、私といたがるんだろう。
 こっちに皆が残ってないからかな。
 赤月君は頷いて、

「わかった。俺は土日仕事入ることあるけど、平日はだいたい大丈夫だから」

 と、ぱっと顔を輝かせた。
 そうなんだ。それなら私とすごく時間、合うなあ。
 私はぎゅっとショルダーバッグの紐を握りしめて、赤月君の顔を見て笑いかけた。
 
「じゃあ私、帰るね」

 そして私は手を胸のところまであげて小さく振る。
 赤月君も手を上げて、名残惜しげな顔になった。

「うん、今日会えて良かった」

「うん、ありがとう」

 私はそう告げて背中を向ける。
 会えて良かった。そんなふうに思ってくれているんだ。
 赤月君、私のこと怒ってないの……かな?
 子供の頃のことだし、もう忘れてるのかな。
 いつか話せるだろうか、あの日のこと。
 私は小さな痛みを感じながら、赤月君の前から自宅アパートへと歩き出した。



 アパートに帰って、私は早速座椅子に座り込む。
 途中で買ってきた炭酸ジュースのペットボトルを空けて、口につけてぐい、と飲む。
 ペットボトルの中で弾ける炭酸を見つめて、私は誰にともなく呟いた。

「赤月君、すっかり変わってたな」

 私が知ってる赤月君は、何が好きだったっけ。
 一緒にいる間、プラモの話なんて一度も聞いたことなかった。
 なのに今はプラモ作ってて、それを動画にしてるって知らない間に何があったんだろう。
 私は見せてもらったプラモ画像を思い出す。

「クマッガイだっけ。可愛かったなあ。プラモって色々あるんだ」

 人生の中でずっと避けてきたプラモ。
 意図的に見ないようにしてきたし、そもそもそういうものと関わってこなかったから全然知らなかった。
 私はスマホを手に取って、クマッガイってプラモについて調べる。
 小さいプラモみたいで値段も千円しない。素人でも作りやすいらしい。
 アイドルばかりの私の世界が少しだけ広がっていくような気がした。
 私はそのまま動画サイトを開いて検索窓をタップする。
 結局赤月君から動画アカウントの情報、たいして聞き出せなかった。
 私はスマホを見つめて検索ワードを考える。

「うーん……プラモ? あと……ゲーム?」

 そのふたつの単語を入力ししてみたら、なんだかたくさん出てきてしまう。
 プラモの動画、思った以上にたくさんある。

「これじゃあ絞れないなぁ……」

 呟いて私は頭に手をやった。
 やっぱり情報が少なすぎるよね。そもそもアカウント名がわかんないから見つかっても特定できなさそうだし。
 私はページをスクロールして、ある動画に目を止める。
 鬼頭さんが言っていた、セナ=ジェイドの動画だ。
 プラモやゲームの配信してるVチューバーって言っていたっけ。
 そこに映し出されたキャラは、かっこいい青年の姿をしていた。
 髪色が明るい緑っぽくて、前髪に白いメッシュが入っている。
 目の色も緑で、服も緑と白が基調だった。

「なんだか髪型が赤月君ぽいかも」

 そう言いながら私はその動画をタップした。
 私はプラモ、ゲーム、て入力したはずなのに、その動画はおはよう生配信のアーカイブらしい。
 広告のあと、動画が始まった。

『おはようございます、セナ=ジェイドです。皆さんいかがお過ごしですか?』

 という、若い男性の声とともに、アバターがこちらに手を振る。
 その声を聞いて、なんだか違和感を覚える。

「……なんだろう、気のせいかな。赤月君の声に似てるような……?」

 そうは思うものの、自信はもてなかった。