朝食も終わり、そろそろお嬢様の登校のお時間ですね。
椿と桜も使用人としての服を着替えて、お嬢様の通う学園の制服にその身を包みました。
車を待つお嬢様の後ろで、椿がネクタイの曲がりを直し、桜がスカートのプリーツを整えます。
使用人として、何よりお嬢様の前で乱れた服装をするわけにはいきませんからね。
さて…いつもなら運転手が車を屋敷の前につけてくれるのですが、今日は何やら遅いみたいです。
もしや、何かあったのでしょうか。
「申し訳ございませんお嬢様!車のブレーキが壊れてしまい、本日は送迎ができません!」
案の定、車の運転手が謝罪にきました。
すぐに椿と桜は動きます。
「車庫にある他の車を動かす事は可能か、取り急ぎ旦那様に連絡を取らなければいけないね」
「すぐに他の移動手段を探しますので、お嬢様はしばしお待ちを___」
ふと、桜の言葉をお嬢様が遮りました。
小さくて可愛らしい唇から飛び出した言葉は意外な物で…どうやらお嬢様は“徒歩”で学園まで向かうおつもりのようです。
なんと健気な提案でしょうか。
「お嬢様…しかし学園まで15分ございます」
「それもこの晴天の下です。その…長く運動をなされていないお体では、お辛い通学となり得るかと」
15分の距離で大袈裟ではないでしょうか。
二人の言葉を聞いてもなお、お嬢様は徒歩での通学に乗り気のようです。
「お嬢様…なんという鋼のご意思…!僕は感動で視界が滲んでおります…!」
「私共が間違っておりました…!初めてとなるお嬢様の徒歩での通学、どこまでもお付き合い致します!」
歩き始めたお嬢様の前方を椿が、後方を桜が守りながら歩を進めていきます。
行き交う車、流れていく雲、子供達のはしゃぐ声。
どれも車で通学していては気にせず通り過ぎていく物ばかりの光景。
しかし、順調に思えたその歩みは5分で終わりました。
お嬢様の体力が尽きたのです。
幼い頃より車での通学をしてきたお嬢様ですから、体力数値がミジンコ並みに小さかったのですね。
ヨタヨタと滝のような汗を流しながら歩くお嬢様の横を、杖をついたご老人がシャキシャキ歩いて追い越していきます。
「お嬢様っ…!なんとお痛ましい…!背中をお支え致します!」
「すぐ近くに公園がございます、そちらまで私の肩に捕まって下さいませ…さぁ!」
結局、お嬢様の体力が回復するまで休憩、歩いてまた休憩と繰り返した結果。
15分で通えるはずの学園まで一時間かかり…三人は遅刻が決定致しました。
お嬢様はなぜ徒歩通学を決めたのでしょうか。
いけると思っていたのでしょうか。
自分の体力のどこに自信を見いだしていたのでしょうね。



