ここで一旦、男である椿は部屋から退出。
お嬢様のお着替えは妹である桜の仕事です。
寝室のすぐ横に設置された高級店ばりのフィッティングルームに移動し、桜がお辞儀をしました。
「お召し物のお着替えをお手伝いさせていただきます、お嬢様」
シルクのパジャマを脱がせると、お嬢様の絹糸のように滑らかな白い肌がのぞきました。
毎晩ヘアケアからネイルケアまで全身くまなく磨かれているお嬢様。
桜が毎日お手入れをかかさないお嬢様のその素肌は、それはそれは美しい輝きを放っています。
桜は思わずため息を吐きました。
お嬢様を敬愛する桜にとって、永遠に見ていられる尊さ。
けれどその身を覆う布がなければ、お嬢様が風邪をひかれてしまう。
桜は用意していたクリーニング済みの学校の制服を取り出しました。
「お嬢様、それではこちらの制服を___」
手に取った瞬間、何かがおかしい事に気づきます。
お嬢様がいつもお召しになっておられる制服と、どこか違うような…?
桜の視線が裾の辺りへ下がりました。
(こ…これは…!)
桜の背筋に稲妻が走ります。
なんという事でしょう。
裾のヒモがほつれて、制服の布地が胸元までしか残っていません。
クリーニング失敗してます。
このままではお嬢様の艶やかなお腹が大衆の目に晒されてしまうではありませんか。
それはなんとしても阻止しなければいけません。
ひとまずスカートだけは無事だったのを確認し、桜はお嬢様にスカートを手渡します。
「お嬢様、少しばかり失礼致します」
お嬢様がスカートをはいている間に、猛スピードで部屋の外にいる椿に合図を送ります。
___トン、トントントン、トン。
ドアをノックして緊急事態である事を伝えました。
すぐにノックが返ってきます。
___トントン、トントントントン。
了解、何とかするとの事です。
これ私が一々通訳しないといけませんかね?
その心配も束の間。
ノックの後、すぐに椿が遠ざかる音が聞こえました。
そして物の3分で椿が戻ってきた気配を感じ、桜はドアを少しだけ開きました。
「これをお嬢様に」
「ありがとう、お兄様」
ドアの隙間から渡されたソレを持って、フィッティングルームに桜が戻ります。
幸いにもお嬢様はまだスカートのチャックと格闘していました。
「お手伝い致します」
お嬢様の横に跪き、桜がスカートのチャックを引っかけて閉めます。
そして受け取ったばかりの物をお嬢様の前に差し出しました。
「こちら上の制服です、お嬢様」
それは桜が丁寧に保管していた自身の予備の制服でした。
お嬢様の使用人として…そして護衛として、同じ学校に通う椿と桜だからこそできる事です。
お嬢様が制服に袖を通し、ボタンを留めました。
無事に上下の制服を着終わり、学校に向かう準備は何とか終わりを迎えます。
ほつれの酷い改造制服となった物を納品するという所業。
あのクリーニング屋に兄妹がクリーニングを頼む事は二度とないでしょう。



